科学ノンフィクションって、ポピュラーサイエンスって、
こんなにも面白いのに、どうも業界としてなかなか盛り上がらないよね?
「翻訳×科学」で何か面白いことできないか考えたいけど、
考える前にまずは飲み会だよね!
そんな流れで、先月、都内某所にてひっそりと「翻訳×科学」の会が開催されました。
各自1冊サイエンス系の本を持ちより、私たちは心ゆくまで無邪気な時間をすごしたのでした。
このとき、私が持っていったのは、この本。
『ミトコンドリアが進化を決めた』
原題は、"POWER, SEX, SUICIDE――Mitochondria and the Meaning of Life"
10年ほど前の本ですが、私がこれまでに読んだポピュラーサイエンスのなかで
最も美しいと感じたエキサイティングな本です。
何が美しいって、まず、タイトルのストレートさ。
邦訳タイトルも原書タイトルも、ともに本書の内容を端的に伝えてくれています。
当時すでにミトコンドリア共生説はかなり広く知られていましたが、本書を読むとそれがいかに運命的であり、真核生物の進化にとっていかに決定的出来事だったかを納得させられます。そしてそれが、性の起源、老化の原因、寿命という宿命にもつながっていくのです。
そもそも生命の本質とは何か。
DNAの存在でもなければ、子孫を残すための複製システムでもないと私は信じています。
エネルギーを費やしてエントロピーの拡大に抵抗していること、死に抵抗していること。
それが生命の本質だと強く感じています。
生きていくにはエネルギーが必要です。
周りの環境からエネルギーを取り出せる仕組みが生まれたとき、生命は誕生したのでしょう。
やがて、それまで細々と慎ましくエレルギーを回して生きていた者たちが、力強いエネルギー生成力をもつミトコンドリアをパートナーとして内に迎え入れたことで、圧倒的な活動エネルギーを獲得します。しかし、その新しい関係の折り合いをつけるために新しい仕組みとして有性生殖が始まり、豊かなエネルギーの代償として老化や寿命、自殺の仕組みが発生しました。
本当にこの本にそんなことが書いてあるのかって?
こんな乱暴な書き方はされていません。もっと丁寧に緻密に検討されています。けれどそのストーリー展開は大胆です。
・・・だいたい生物学を研究している人たちというのは学生から教授までレベルを問わず多かれ少なかれ普段からこういう夢想をしているもので、料理を囲んでお酒なんか飲んじゃったらいろんなストーリーが無責任に飛び出すものだと私なんかは思っているのですが(少なくとも私の知っている人たちはそうでした)・・・
根拠を積み上げ、周到に議論を組み上げて壮大なドラマを語ることのできる人はそう多くありません。
ニック・レーンの力強く大胆不敵なストーリーテラーぶりには圧倒されるばかりです。
読みごたえがありすぎて消化しきれていないところも多々ありますが、それでもわくわくさせてくれる本。
ほんとオススメなのです。
ニック・レーン著、斉藤隆央訳(みすず書房)