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004『モンキー・ウォーズ』

 

子どものころは、小説、推理小説、SF、ファンタジー、伝記、図鑑、実用書など手当たりしだいに読み、その世界に浸りきって時間を忘れ、先生や親によく叱られましたが、

 

大人になるほどに、私の読書はノンフィクションへと傾いていきました。

 

 

今もフィクションを読まないわけではないけれど、

「事実は小説よりも奇なり」。

 

 

 

でも、

物語にしなければならない真実もある。

 

 

 

そう思わせてくれる作品に出会うと、震えます。

 

ここ10年ほどで出会った本のなかにもそんな物語がいくつかあって、思い出すだけでも身震いしますが、

なかでもとくに鮮烈だったのが、

 

 

『モンキー・ウォーズ』(あすなろ書房) 

 

 

 

大人も楽しめる児童書、という程度の認識で読みはじめ、電撃ショックを受けました。

 

冒頭、一行目からのスピード感。そして、オブラートに包まれた「物語」から、現実がこぼれ出ているような生々しい感覚。

丁寧なやさしい言葉で綴られ、登場人物――いえ、登場するサルたちも生き生きと動き回っているので、小学生高学年くらいからでも読めそうですが、

 

でも待って。ぜひ、先に大人が読んでみてください。

 

繊細なお子さんなら、あまりの現実らしさに泣いてしまうかも。泣いてしまうほどの感受性で受けとめられるお子さんなら、その読書体験は生涯の宝物になるでしょうけれど。

 

お子さんの性格によっては、血沸き肉躍る楽しい冒険物語として読めてしまうかも……それもまた良し!

 

そのあたり、ぜひ見極めつつ、一度は出会わせてあげてほしいなと思ってしまう本でした。

 

 

物語の概要を大人の言葉で表現するなら、

政治、権力、種族紛争、マスコミ煽動。

人の弱さ、世論の愚かさ。

理想の危うさ、どうしようもない現実。

 

 

安定した生活を求め、種族のために戦うサル。

ある日突然、平和な日常を奪われたサル。

権力を得るほどに、自分の弱さに負けそうになるサル。

そんな「現実」にどう立ち向かっていくのか。

 

 

サルたちの物語ですが、けっして、よそ事ではありません。

 


『モンキー・ウォーズ』 

リチャード・カルティ著、久保美代子訳(あすなろ書房)